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アルテミスは不愉快そうに言った。
「自慢話?」
「事実を伝えておきたいだけだ。実際に私には死者の王と呼ばれるだけの、制度や慣習を超えられる力がある」
カツラギがニヤッと笑った。
「君ほどの学力があれば、話し方さえ注意すればアッパータウンの学校でもやっていけるだろう」
「学力って……」
アルテミスとは違い、カツラギはアルテミスの事を調べ終わっているようだった。アルテミスは唇を噛んだ。
「そう悔しがるな。分かりやすい娘だな」
カツラギは笑った。レイネの話をし始めて、アルテミスが受けていたカツラギの冷たい印象が消えていた。
「プルートには権力がある。警察本部、ポリスセンターというのか、には依頼をすませている。その時に君のデータを受け取った。私は年老いたが、データの判断くらいはできる。こちらで転入手続きは済ませよう。警察からの支給のほかに一日二万クロノ払う」
「地球じゃ、その金額なんだろうけどね」
「少ないかね」
「逆だよ。相場は二千クロノだ」
「気に入った。正直だな」
カツラギは笑った。
「私は浪費は嫌いだが、吝嗇ではない。孫の命を安く見積もるつもりはない。週末ごとに銀行に振り込もう」
「気前がいいね。一回分で満足して、持ち逃げするとは考えないの」
「長く生きているからな。少し話せば分かる。それに生きているうちに使ってこそ、金には意味がある。プルートとはいえ、死体に金を払うのも気が引ける」
アルテミスは表情を引き締めた。
「それだけ危険ってことか」
「そういう現場を見てから、ここに来たのではなかったのかね」
カツラギはそれだけ言い、テーブルの上にあったベルを鳴らした。
「レイネは君が気に入ったようだ。待っているから話が済んだら部屋によこしてくれと再三言われたよ。時間を取らせてすまないが会ってやってくれ」
アルテミスの諦めたような表情を見て、カツラギが続けた。
「そんな顔をするな。レイネはおまえの隙間を埋めるだろう」
「冥王の予言?」
「ささやかな贈り物だ」
ミリが顔を見せた。
「こちらをレイネの部屋にお連れしてくれ」
「承知しました」
再び、アルテミスはミリについていった。階段を上がり、二階に向かう。二階の右奥の扉の前で、ミリは足を止めた。
「お嬢様。お客様をお連れしました」
「ありがとう」
「どうぞ」
ミリにうながされ、アルテミスは中に入った。
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