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 アルテミスは顔をしかめた。 「『スターライト』に来いって?」  アルテミスにとっては子供の頃には遊び場にしていた店だったが、「スターライト」は安酒といかがわしさで有名な店だった。  男はアルテミスの表情を見て、恐る恐る尋ねた。 「お越しいただけないでしょうか」  フウディの人選は正しかった。下手に出られて断れるほど、アルテミスは薄情ではなかった。それでも、アルテミスは相手に聞こえるほどの、わざとらしいため息をついた。 「行くけどさ。次は普通の喫茶店にしてって言っといて。いくらなんでも、『スターライト』はないんじゃない?」 「気がつきませんで申し訳ありません。それも伝えておきます」  男は会釈をした。 「それと……」  アルテミスは声をひそめた。 「なんでしょう?」 「フウディに制服のことはナイショだよ」  男は笑みを浮かべた。 「リアルタイムで映像を送っているもので……」 「ああ…… 分かったよ」  男は軽く会釈をして去っていった。  ロアータウンとミドルタウンの隣接地域、ミドルタウンとアッパータウンの隣接地域では、生活にそれほど違いはない。しかし、ロアータウンとアッパータウンでは、生活習慣がまったく違っていた。  どの生活域もアウターボーン・システムの影響下にあり、システムに依存している点は同じだった。ただ、アッパータウンでは地球に近い生活が営まれ、そこから遠ざかるほど地球の慣習から離れていた。  「アウターボーン」は地球から離れて生きる人間を指す蔑称だった。それは同時に、そこにすむ者の安全を守るために考え出されたシステムの名でもあった。ナノテクノロジーによって生み出された「アウターボーン・システム」により、ユラナスに住む者たちは宇宙で生きるために必要な外骨格を得た。ティタニアやオベロン周辺域に住む人類は、そのシステムのおかげで全滅することなく、生活圏を築いていった。  いつものようにアルテミスがバス停に向かうと、やはりいつものように路上で倒れている者たちの視線を感じた。が、いつもと違い、誰もがアルテミスに睨まれるまで驚いた表情のまま視線を外さなかった。いったん視線を外した者たちは手で顔をぬぐい、目をしばたたかせてからアルテミスの後姿を見送った。  いつもより遅い時間に、アルテミスはバス停に着いた。すでに、マリエの店のシャッターは開いていた。
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