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 アルテミスがショーウィンドウに映った自分の姿を見ていると、店の奥にいたマリエが近づいてきた。マリエの目を細めて見ている様子に、アルテミスは顔を赤らめて背を向けた。  マリエはいぶかしげな表情で外に出てきた。 「おや、まあ、誰かと思ったよ」  あらためてアルテミスだと分かったとでも言うように、マリエは嬉しそうに声を上げた。 「長生きはするもんだね。ジイさんにも見せたかったね」 「やめてよ」  アルテミスはのりの効いた白いブラウスの襟に触ったり、タータンチェックのスカートの裾を引っ張ったりした。オレンジ色の髪を銀のカチューシャで留めている。ライラックの花に似た薄い紫色の瞳が不安そうに揺れていた。  着慣れない服を着るというたわいのないことで、アルテミスは不安そうにしていた。マリエはシビリアンポリスとして恐れられている少女の自信のなさそうな様子をほほえましく思った。 「その服、アッパータウンにあるハイスクールの制服じゃないのかね」  マリエの励ますような声に、アルテミスは照れくさそうに笑った。 「そう。今日から護衛で行くんだけど。似合わないよね。こんな格好」 「そうでもないさ。可愛いよ。よく似合ってる」 「落ち着かないな」 「どうして」 「いつも動きやすい格好をしていたから。スカートなんて久しぶり」  マリエはアルテミスに手を伸ばし、少し曲がっていた赤いネクタイをまっすぐに直した。 「瞳の色を元のグレーに戻して、髪の色を黒かブラウンに変えれば、落ち着いて見えるのに。そのくらいだったら、幾らもかからないじゃないか」  マリエは心配そうに付け加えた。 「アッパータウンじゃ、そういう薄紫の瞳だと嫌われるんじゃないのかい。あの辺の人たちは不必要な改造を嫌っているって言うじゃないか」  アルテミスは苦笑した。 「オレンジの髪は生まれつきだから変える気なんてないわ。瞳の色も気に入ってるから変えない。この褐色の肌も。お金の問題じゃない。それに相手が気に入るかどうかなんて気にしない。アタシが気に入るかどうか、よ」  マリエは呆れたようにポカンと口を開けていたが、すぐに大笑いした。 「着ているものが変わっても中身は変わらないね。まったく気の強い娘に育ったもんだよ。せっかくアッパータウンの学校に行くきっかけができたんだ。お嬢様にはなれなかろうけど、うまくおやり」  マリエが優しく言った。
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