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リッチーが憐れむような表情でアルテミスを見つめた。
「嘆かわしい。若いうちから、そんなものに頼ってどうするんだ。まったく」
外見に似合わないリッチーの年寄りじみた言い草に、アルテミスは苦笑した。
フロートチェアはアルテミス一人でも持ち運びできる重量だった。トランクに積んでいると、リッチーが近づいてきた。
「おい。あとは任せるが。お嬢様に何かあったら、生かしちゃおかないからな」
「分かってるさ。こっちも仕事だ。真面目にやるよ」
「おまえの部隊もオレたちは見張っているからな」
リッチーの言葉にアルテミスは首をかしげた。
「アタシの部隊? シビリアン・ポリスは動いていないはずだけど?」
「所属は分からないがな。ロアータウンからミドルタウンまで六人の部隊がおまえのまわりにいたぞ。装備はごちゃごちゃだが、強力な武装をしている。警官でもなく、軍人でもない。だが、人殺しには慣れている連中に見えた」
「ああ……」
めったに見せないフウディの凄みのある笑顔がアルテミスの脳裏を横切った。
「あんたたちの敵じゃないよ。民間人に近い連中だから。ただ、手を出すと面倒くさくなるから、やめといた方がいい」
「向こうから仕掛けてこなけりゃ、こっちは手を出さないさ」
リッチーの返事にアルテミスは小さくうなずいた。
アルテミスはドアを開け、レイネの横に座った。車内に入ってきたアルテミスに、レイネが心配そうに尋ねた。
「リッチーが何か言ってたみたいだけど?」
「お嬢様をお願いします、だって。人気があるね」
レイネは嬉しそうに微笑んだ。
エアカーは法定速度を守り、学校に向かった。十分も走らないうちにゲートについた。そこで一回止まり、チェックを受けてから敷地に入った。エアカーが校舎の入り口前に止まった。
「レイネ様。アルテミス様。一つよろしいでしょうか?」
ドライバーが振り向いて、言った。アルテミスが丁重な物言いに面食らっていると、慣れた様子でレイネが答えた。
「何でしょう?」
「ただいまは校舎前までお連れしましたが、お帰りの時は校舎裏手のターミナルまでお越しください。混み合いますため、特別な場合以外、ここには車両を入れない規則になっておりますので」
「分かりました」
レイネの慣れた受け答えをアルテミスは感心した様子で見ていた。そのまま外に出て、トランクからフロートチェアを出した。
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