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アルテミスは生物で習った虫を思い出した。
「気持ち悪いな」
黒い楕円形の体の頭部らしい場所にフレキシブルの三本の筒があった。虫はその一つをエアカーの方に向けようとしていた。
「動くな!」
アルテミスの制止の声に反応したのか、それは一本の腕をアルテミスに向けながら体を起こした。
アルテミスはショックガンを撃ち込んだ。はぜるような音がしたが、相手は気にもしていない様子だった。いきなり折りたたまれた腕が伸びた。先端のナイフ状の部分が外骨格にあたり、金属音を響かせた。
「ジャベリン!」
アルテミスの声にDパックの両サイドから三十センチほどの筒が伸びた。先端がアルテミスの肩に乗り、目標を定める十字のサイトが表示された。
「発射!」
右側の筒から、超振動針「ジャベリン」が発射され、アルテミスは屋根から飛び降りた。
ジャベリンは大気を切り裂きながら直進し、甲虫の背に刺さった。瞬時に甲虫の背に大きな穴が開き、チリとなった体が屋根から噴き出した。
ちりが落ち着いてから、アルテミスは再び屋根に上がった。ショートしているのか、黒い甲虫の背中に空いた穴の中で、何度か火花が飛んだ。甲虫の手足の動きが、ゆっくりと止まった。
「なんだ、これ?」
もう一度索敵したが、周囲の生存反応は一つだけだった。
アルテミスは生存者がいるエアカーに歩き出した。情報を検索し、脱出用のコックを倒してから後部のドアを押し上げた。
衝撃で膨らんだエアクッションとシートの間に、小柄な少女が挟まれていた。艶やかな黒い髪に、銀色に見えるほどの色白の細やかな肌をしていた。怯えたブルーの瞳がアルテミスを見つめていた。
「心配すんな。今、動けるようにするから」
アルテミスは足首に付けたベルトからナイフを取り出し、エアクッションを裂いた。少女は身をよじると深いため息をついて、シートに仰向けになった。
「ありがとう。潰れるかと思った」
「大丈夫か」
「苦しかったけど、たぶん今は大丈夫」
少女はシートに横たわり、息を荒げていた。アルテミスはちらっと前のシートを見た。前と後ろの席を区切る透明なパネルがあり、その向こうは血と肉が飛び散っていた。
「うぇ…… ナマだ」
アルテミスはショックガンをチョークバッグに戻した。
アルテミスは自分より小柄な少女の手を取り、そばに引き寄せた。
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