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 少女はアルテミスを見つめて、尋ねた。 「カシムは?」 「カシム?」 「運転していた人」  横たわった少女の位置からではシートが邪魔をして、前が見えないようだった。 「見ない方がいいよ。死んでる」  少女は体を起こそうとした。 「だから見るなって。そのままでいなよ」  少女の体が小さく震えていた。アルテミスは少女の黒い髪を撫ぜた。 「ウラノス初日に、こんなことになるなんて」 「ウラノス? ああ、おまえ、テランか」 「そう。地球から来たの」 「だろうな。発音が違う。ユラナスだ」 「なんで?」 「なんでって、大昔に冗談で言った連中の発音が残ったのさ」 「なんて言ったの?」 「知らないの。おまえのけ……」  アルテミスが言葉に詰まっていると、後ろから声をかけられた。 「お嬢様への教育は、そこまでにしておいてくれ」  アルテミスは少女を背に隠すようにして振り返った。  百七十センチのアルテミスより頭二つは背が高い男が、腕を組んで立っていた。エアバイクに乗っていた男だった。 「見えているのに、生存反応が確認できない」 「俺は幽霊だからな」  男が笑った。 「あんたは誰だ?」 「これはまた、威勢のいいお嬢ちゃんだ」  アルテミスはジャベリンもセットしていた。男は右手を上げ、左右に振った。 「戦う気はないから、それは使うなよ。オレは死にたくないし、殺したくもない」 「お互い様だ。そっちの銃だって、強化弾を使ってるだろう。じゃなきゃ、いくら一般車でも吹っ飛ばない。もう一度聞く。誰だ、あんたは」 「その子のボディガード。ヒュー・マッケインだ」  厚手の濃い緑色のTシャツに黒の革のジャケットを身に付けた頑強な体つきの男が名乗った。同じ色のライダーパンツとブーツの左側が転倒のせいで汚れていた。短く刈られた濃いブラウンの髪の下に、えらの張った無骨な顔があった。三十代後半に見えるが、そのままの年令ではないことは右上半分だけがメタリックなままの顔で分かった。 「ジュピトリアンのサイボーグ兵か」 「そうだ」 「ジュピトリアンがテランのボディガード?」  ヒューは物怖じしないアルテミスを面白そうに見ていた。 「こんな辺境に住んでいると知らないだろうがな。地球連邦と独立惑星連合の戦争は一世紀以上前に終わってるんだよ」  構えを崩さないアルテミスにヒューは皮肉っぽい口調で答えた。
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