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少し間をおいて、ヒューが続けた。
「テランはサイボーグ化を嫌がる。不便でもな。DNA治療もあるが、地球では制限が多い。ユラナスだったら最先端のDNA治療が受けられると考えて、カツラギ氏が連れてきた」
「そうなの。アタシはここから出たことがないんで。悪かった」
「いいさ。気を使ってくれたことくらい分かる」
ヒューは片手を挙げ、エアバイクの方に歩き出した。アルテミスは振り返り、レイネに近づいた。
「髪はまとめた方がいい」
レイネがバッグの中から光沢のあるオレンジ色のリボンを出して、髪を結んだ。
アルテミスは壊れ物を扱うように、そっとレイネを抱いた。小柄な体は見かけの通り、軽かった。
「ヒューのエアバイクに乗っていくの?」
「いいや。アタシが抱いてく」
レイネは不思議そうな表情でアルテミスを見た。
「アタシの足を見ていて。ディフェンスフォーム、レベル1モード2」
アルテミスはアウターボーンを部分装着した。レイネが見ていると、アルテミスの腰から下が銀色の皮膜に覆われだした。すぐに皮膜は厚さを増し、金属質に変わった。足元がスカートのように広がり、両腿の外側に吸気口ができた。
「すごい!」
覗き込んでいたレイネが大きな声をあげた。近づいてきたヒューも驚いたというように口笛を吹いた。
「一瞬だな。それが外骨格か」
「そうだ。第二段階のアウターボーンだ」
アルテミスはヒューを見た。
「どこまで行くの」
「アッパータウン12B」
「マップ、アッパータウン12B」
ディスプレイに地図が映し出された。バイクを浮上させたヒューに、アルテミスは警告した。
「一般道の制限速度は最高六十キロ、浮上高規制二メートルだからね」
「分かった。そのスピードでついてこれるのか」
「心配ないよ。この状態で百二十キロは出せる」
アルテミスはわずかに腰をかがめた。レイネに声をかける。
「怖かったら目をつぶってて」
「分かったわ」
「行くよ」
甲高いモーター音が足元から聞こえた。次の瞬間、アルテミスの体が浮いた。レイネはゆっくりと動き出した風景を面白そうに見ていたが、風が強くなると風景からアルテミスに視線を移した。目的地に着くまで、レイネはずっとアルテミスを見つめていた。
『こんなことも、この子には驚きなんだろうな』
アルテミスは微笑みながら見つめるレイネの瞳から視線をそらした。
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