覗き穴

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 重たい玄関の扉を閉め、鍵を掛ける音が聞こえる。僕は慌てて、居間から走って玄関に向かい、扉の覗き穴に右目をくっつけた。隣に住んでいる若い女が、丁度エレベーターに乗り込むところだった。  相変わらず派手な格好だ。胸元は大きく開き、ミニスカートからは生足がにょっきり覗いている。金髪に近い茶色のロングヘアーを掻き上げ、香水の匂いをエレベーター中に撒き散らしてる事だろう。  僕は、このワンフロアに三戸の部屋があるマンションの、真ん中の五0三号室に住んでいる。壁があまり厚くないせいか、人が出入りするのが丸聞こえで、いつしかそれを覗き穴からこっそり眺めるのが日常の一部になっていた。  今日も誰かがやってきたのか、がちゃがちゃとフロアで音が響いている。僕はいつものように覗き穴に向かった。右目を懲らしてフロアを見ると、そこには誰もいない。はて、遅かったかと思い居間に戻ると、また鍵を取り出すような音が聞こえる。急いで覗きにいくも、やはり誰もいない。少し気味悪くなったが空耳だったのか もしれない。  その時、同じ音がフロアから聞こえた。間違いない。僕はそっと、覗き穴からフロアを眺めた。一瞬、真っ暗になり驚いた僕は、覗き穴から離れた。  覗き穴には、コードのような神経をぶら下げた僕の目玉が張りつき、尚もフロアを覗き続けていた。
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