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「……当たり前だろ」
声が、どうしようもなく擦れていた。
こんな俺たちが知り合ったのは、佑がこうして入院する僅か一ヶ月前。美術の授業の帰り。
俺はかったるくって、派手なダチとカモフラージュような頭空っぽの女たちとワーキャー騒ぎながら出口に向かっていた。
そこで大きく身振りをしたとき、一つのキャンバスにぶち当たってしまった。
『あ、わりぃわりぃ』
ヘラヘラ笑いながら、誠意もない謝罪をする。
こういう無理やりらしくない自分を演じていると、心がどうにかなりそうだった。
『うん、いいよ』
その澄んだ声、そして儚げな笑顔に、胸が今みたく鷲掴みにされたみたいだった。
『あ、や、いや……』
戸惑いをバレないようにするので、精一杯だった。
みっともないくらいの狼狽。形だけのダチがどうしたのーとうるさげに聞いてくる。
うるさいなお前ら。
そんなナニモカモを置いたまま、佑は席を立った。
そしてゆっくり、艶やかな足取りでキャンバスを拾い上げ、そして元の場所に戻した。
息を呑んだ。
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