彼女の本音

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 あの日以来、俺は彼女の影を気にするようになった。もちろんさりげなく振る舞っていたつもりだったけれど、勘のいい彼女にはすぐばれて、俺の不可解さを問い詰められた。  どう説明すればいいものか。  思案したが、結局俺はありのままを彼女に告げた。そうしたら、彼女は驚いた顔を見せた後にうつむいた。  聞けば、彼女は生い立ちが複雑で、本心を簡単に晒せない生き方をしてきたらしい。  その理由が気にならないといえば嘘になるけれど、それ以上に、そんなふうに生きてきた彼女に色んな気持ちが湧いて、俺は彼女を強く抱きしめた。  その際に、初めて彼女の涙を見た。とても綺麗な涙だと思った。  あれから。  二年が経った今も、俺と彼女はつき合っている。最近は、そろそろ結婚をという話も出だした。  ちなみに、あの日見た彼女の不思議な影は、今でも時々見えるけれど、一切気にはならない。  影が示すのは、彼女が押し殺した本心だ。表せない本当の気持ちだ。  それを俺が理解し、影が彼女の本体と違う仕草をした時は、こちらから誘導して、影がしたような行動を彼女が取れるようにした。  その目論見は成功したらしく、まだ完全ではないけれど、彼女は自分の気持ちをかなりきちんと表現できるようになった。  影がどんな行動に出ようと、俺は彼女を愛している。一生涯、全力で守ろうと思う。  照れて簡単には告げられないけれど、心にいつも抱えている気持ち。それに応じてくれるように、本体は遠慮がちに少しだけ距離を空けている彼女の、本音の影はぴったり俺に寄り添っている。  多分きっともう少し。俺の努力と彼女の理解でこの僅かな隙間は埋まる。そうしたら…結婚しよう。 彼女の本音…完
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