イクセリオン・サーガ

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「何を修得できるかは、完全に魔術師本人の先天的特性に依存。1人1つ、そして修得者本人にしか扱えない魔術である。そう思われていたからこその『固有』魔法。それを君は、あろうことか1人で2つ、しかも後天的な要素によって、欲しい魔法をある程度狙って修得した節さえある。そんな無理に無理を重ねた魔法を、同時発動して制御しきるなんて無茶苦茶が、『天才』の一言で片づけられる範疇を超えていることは、僕程度の魔術師にだって分かるさ」 「……必ず、成功させてみせます」 「却下だ。リスクが大きすぎるし、そもそも、ほんのわずかでも命を落とすリスクがあるような試みに、自分の教え子をさらすわけにはいかないよ。それが、たとえ魔術師としては凡人だったとしても、1人の大人として果たすべき義務だ」 「…………」  先生の言うことは、正しすぎるくらいに正論だろうさ。  だけど。 「【断絶の境界】に囚われている莉音の父親という立場からでも、先生は、同じ言葉を口にできるんですか」  その言葉に、先生の気持ちが大きく揺らいだのは、俺から見ても分かった。 「だからこそ、だ。これは僕個人の問題。僕の娘を救いたいという個人的なわがままのために、君の命を賭けるわけにはいかないんだ。分かってくれ、和泉君」 「……嫌です」  俺だって、生半可な覚悟でこの場所に立っているわけじゃない。  【断絶の境界】の中に囚われ、死んだように眠り続けている莉音に目をやりながら、言う。 「だって、俺がここにこうして居られて、天才だなんだって呼ばれているのも、全ては莉音のおかげなんですから。だからこれは、俺個人のわがままでもあるんです」
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