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今になって考えれば、きっかけは本当に些細なやりとりだったし、莉音としてもそう深く考えての発言ではなかったのだろうけど。
それでも、後天的に鍛えるのが不可能である魔力量が極端に少なく生まれ落ちてしまった俺が、「精密な魔力コントロールを徹底的に磨き上げることで、体内の回路を流れる魔力を自由に加速させ、疑似的に魔力量を底上げする」という現在のスタイルを身につけられたのは、間違いなく莉音と先生のおかげなのだ。
「俺は……莉音との約束を守りたい。今ここで莉音を救えないのなら、俺の才能とやらも、今までに積み重ねてきた努力も、何の意味もない! それを邪魔するなら、たとえ先生であっても……倒します」
「……はぁ。そう言われてしまえば、仕方ないね。僕程度の魔術師じゃ、和泉君を実力行使で止める選択肢すらも持ち合わせていないんだから。君に気絶させられて、ただ術式の邪魔になるくらいなら、せめてこれくらいはさせてもらうよ」
そう言うと先生は、俺の肩に手を置いて、何やら呪文を唱え始めた。
「これは……、魔力回路の、共有?」
「そう。魔術師として、僕が和泉君を上回っているものといえば、魔力量くらいしかないからね。これで和泉君は、合計二人分の魔力を貯蔵した仮想の魔力回路を、自分のもののように扱うことができる。ふだん魔力量の疑似的な底上げに割いている分の魔力コントロールを、固有魔法の制御に回せるようになれば、少しは成功率も上がるだろうさ」
「先生……!」
もちろん分かっている。これが、言うほど簡単な話じゃないってことは。
魔力回路を共有するということは、魔力の制御に失敗して回路が暴発したときのダメージは、等しく先生も負うということだ。
しかも、人並みの魔力量を扱えるようになったからといって、今から発動するのは、スケールが違いすぎる前人未到の大魔術。その制御には、依然として薄氷の上を渡るような繊細さが求められることには変わりないのだ。
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