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「それにね、仮に失敗したとして、君1人だったら命を落とすかもしれないが、ダメージを2人で分散すれば、瀕死の重傷が2人、くらいで済むかもしれないだろう?」
先生だって分かっているだろうが、それだってほんの気休めに過ぎない。
少しは生存率が上がるのは確かだろうが、下手に制御をしくじれば、ダメージを半減したところで関係なく、人2人の命くらいは容赦なく吹き飛ぶ。
「……行くよ、和泉君。タイムリミットまで、もうあまり時間も残されていないことだしね」
「はい。莉音を……救いましょう。俺たちの手で!」
だがもちろん、俺だって、この魔術を絶対に失敗させるつもりはない。
改めて、ペンドしていた固有魔法を、再起動させる準備を進める。
新たな仮想回路に魔力を流し、徐々にスピードを上げながら温めていく。
そんな中、ふと、先生に訊いてみる。
「こんなことして、怖くないんですか、先生」
「はは。……正直、おしっこちびりそうなくらい怖いね」
にも関わらず、先生は、俺の魔力コントロールに命を預けてくれている。
魔力制御に悪影響が出ないよう、震えそうな身体を必死に押さえつけながら。
……ほんと、どれだけ感謝してもしきれないよな。
「和泉君。君は、僕のような人間になってはいけないよ」
「先生?」
「自分じゃ何もできないくせして、内心では莉音を救ってほしくて仕方ないのに、大人としての体面を保つだめだけに、いったんは君を止めるポーズだけとってみせるような、汚い大人にはなるなってことさ」
「俺だって。魔力量が多少増えたところで、結果にほとんど影響なんてないことは分かり切っているのに、回路の共有を切らず、大人の善意に甘えて、ただほんの少しの安心感を得るためだけに人1人の命を危険にさらす、クソみたいな子供ですよ」
「……ありがとうね、和泉君」
「こちらこそ」
さて。これで、《久遠の祝福》でブーストされた固有魔法を【断絶の境界】にぶつける準備は整った。
さっきは先生に止められた一言を、再び口にする。
「降り注げ、《破滅の一撃》!」
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