21グラム。

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   眉目秀麗、文武両道、人格者。コレが、周囲の生徒会長への印象だった。  でも、私にとって生徒会長は、『変人』だった。 「きみはー、もう少し周りと溶け込もうよぉ」 「余計なお世話です」  私は誰も来ない埃っぽい第一図書室の貸し出しカウンターで、そう突っ撥ねた。みんなの人気者、麗しの生徒会長様をだ。  この第一図書室が在るのは旧校舎で普通校舎と理科室や美術室の在る特別棟とも離れていて、第二図書室が特別棟に在るのも相俟って滅多に人が来ない。せいぜい、史実研究会と言うサークルが文献を借りに来るくらいだ。あとは。 「ちぇー」 「……」  そこの変人生徒会長さん、とかね。私は本を閉じた。脇に退けると、会長は私が話を聴く体勢だと察したようで耳と尻尾をぶんぶん振った犬の如く身を乗り出して来た。 「あのねあのね、“魂が二十一グラム”って言うじゃない?」 「はぁ……ダンカン・マクドゥーガル博士の実験ですか?」 「お! やっぱりねぇ。きみは絶対知ってると思ったんだー」  とてもうれしそうに言ってくれるが、最近、特に持ち出されていてそこそこ有名な話だ。私以外の、それなりに本を読むとか映画を観るとか、カルチャーに触れる機会の多い者なら割とメジャーな説では無いだろうか。 「俺はねー、信じてるんだぁ」  出た。私は溜め息を吐いた。コレ、だ。こう言うところなのだ。  この人は、頭が良く国内の一流大学はおろか、海外の上位ランクに鎮座まします大学や研究機関に熱烈なラブレターを貰う程の人材なのに、なぜか、オカルトが超絶に好きだった。 「あのね、犬は減らなかったじゃん、とか言うでしょ」 「ああ、犬に魂が無いなんておかしいとか、当時の秤は“当時にしては”正確なんであって、実際は誤差が在るはずだってヤツですね」 「そーそー、それぇ!」  行事とか公式の場で、はきはき小気味良く喋る彼は普段間延びした話し方をした。けれどこんなところもギャップだと衆人は思うらしい。私は、どうかと考えるのだけど。 「俺はねー、その二十一グラムは“情報の質量”なんじゃないかなって思うんだ」 「情報の?」 「そー! だってやっぱ容量って偏ってるじゃなーい? 人間は脳の容量が極端に多いのだとしたら、二十一グラム重くてもおかしくないでしょう?」
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