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“MMORPG”、正式名称『Massivaly Multiplayer Online Role-playing Game』。千単位万単位の大人数が一サーバの築く大きな世界を遊ぶゲームのことだ。会長の言うことはその真逆に聞こえる。一つのサーバから、世界に来ていると言うのなら。逆セカイ系、とでも言うような。ところが、会長は首肯せず微笑むだけで。私は訝しく思い「違うんですか?」尋ねた。
「うーん……そうだねぇ。俺はねぇ……この世界もMMOだと考えているのよ」
「え。そうしたらおかしいじゃないですか」
会長のいきなりの転換につい食い付いてしまった。さっきから会長は魂をサーバから下ろしていると言っていた。肉体がハードだとも。ハードにインターネットの如く下ろしているのだと。会長は唇を人差し指で数度叩く。会長の、思考を纏めるときにする癖だ。やがて纏まったのか、人差し指が離れた。
「て言うか、肉体がハードじゃないのかもよ?」
会長の科白に、いよいよ私は困惑した。え? 肉体がハードじゃないの? 会長そう言ってなかった? 考えて、記憶を浚うと、あ、言ってなかったと気付いた。え、じゃあどう言うこと? 私は訳もわからず会長を見詰めていると会長が「いやーん。そんな見ないでっ」と身を捩った。……なぜ照れた。
「んーとね、MOもMMOもオンラインゲームでしょ? 自分のキャラクターを作って、遊ぶでしょ」
「ですね」
「だからさー、この世界の自分も、そうかもよって」
「……。え」
「オンラインゲームで、サーバを通して魂が送られているのかもってこと」
現実にそう言うこと提唱している学者もいるんだよ、と会長が笑った。顔面偏差値が高いだけ在ってきれいだった。少しだけ、ぞっとした。だってもしもそうなら、ここは仮想世界だと……いや。
仮想世界なんて、概念もこの世界でのことだ。ああ、もうっ。混乱するなぁ。会長を、貸し出しカウンター越しに見た。会長は、モデルのような体躯をカウンターに寄り掛からせ、モデルより美しい容色を歪めた。くっそ。
私は、会長のオカルト論理に飲まれまいと、起死回生的な一言を投じてやった。
「……で、その理論は実証されているんですか」
そうだ。実証されなければ、コレはただの妄想なのだ。机上の空論。私が問うと会長は途端に唇を尖らせた。
「……してないけどー」
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