12月の木

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秋の風が冷たくなり、木枯らしが吹き始める10月の終わり頃、僕は、大学の近くにある小さな公園で、小学2,3年生ぐらいの男の子と女の子が、ダンボール箱を潰して、その裏にマーカーで何かを書いているのを見かけた。 その公園には、赤茶けた小さな滑り台とブランコが2つ。 半分地面に埋められた、赤や黄や青の色で塗られたトラクターの3つのタイヤ。 それらは、ペンキが所々はげ落ちている。 彼らが、あーでもない、こーでもないと言いながら、楽しそうにしているのを見て、僕は何となく微笑ましい気持ちに成った。 その頃の僕は、午前中を学校で過ごし、午後からは, 行き当たりバッタリのバイト。 ただ、金曜と土曜の午後4時から11時までは、毎週、日本食のレストランで働いていた。 行き当たりバッタリのバイトとは、必要な時だけ呼ばれる、大学のテラスでのサンドウィッチ作りであったりとか、ピザの店番やデリバリーだった。 そのピザ屋は、数学の授業で知り合ったイタリア系移民のマイクの家族が経営している店で、こじんまりとしたショッピィングプラザにあり、イタリア風のサンドウィッチなども扱っていたが、殆どの営業は、お持ち帰りかデリバリーだった。 僕は、度々、その子供達を、街のあちらこちらで見かけた。 彼らは、何時も5人いっ緒で、あのダンボール箱に書いたサインを持っていたのだが、バイクで移動していた僕は、そのサインを読むことができなかった。
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