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完璧な彼には一つだけ、欠点があった。
「キミの事が好きなんだ」
それは、ただのクラスメイトである私に好意を持っていることだった。
質実剛健、眉目秀麗、勇猛果敢、温厚篤実。
これらは全て彼を評する言葉である。方々から聞こえてくる声の全てが、彼を褒め称える。顔がいい。体格もいい。勉強もできる。歌もうまい。字も綺麗。走るのも早い。優しい。面白い。性格もいい。おうちもお金持ち。持っている物のセンスもいい。
彼の事を話す全ての人が、自分の事ではないのに、何故か誇らしげに自慢する。
聞いている方がくすぐったくなる。
「付き合ってほしいんだけど。返事、聞かせてくれる?」
その人がどうして、ただのクラスメイトである私の事を好きなどとほざいているのだろう。
「なんで、私なの」
「それじゃ返事になってないよ」
可笑しそうに言う彼に、私は首を傾げるしかできない。
「だって、どうしてあなたが私を好きになるのか分からないんだもの」
放課後の教室で、学級日誌を纏めている私の妨害をするために、前の席に後ろ向きに座っている彼が今度は首を傾げた。
「キミを好きにならない理由がないよ。かわいくて、綺麗で、真面目で、」
「ちょっとやめてよ」
聞いておきながら、慌てて遮ってしまったのは聞くに堪えないからだ。
「やめない。君が聞いたんだろ? それで優しくて、ピアノが上手で、髪が綺麗で、運動も得意で」
「ストップ」
止まらない口に両手を向けて、今度は強めにそう言ったら、彼はどうにか大人しく従ってくれた。
「何、君の質問に答えたまでなんだけど」
不服そうな彼の顔面に私の手のひらを向けたまま、私は返事を告げた。
「無理」
「……何が?」
「あなたと付き合うのが」
私は一瞬で考えたのだ。彼と付き合った時に一体何が起こるのか。
「全校生徒、いや下手したら他校の生徒であろうが教師であろうが性別が女である人類は皆あなたのファンなの。そんな人が一人の女に好きだなんて言ったらどうなると思う」
「僕に彼女ができると思う」
随分と能天気な返事だ。私の学校生活の平穏が掛かっているというのに。
リアルで下駄箱がラブレターでいっぱいになる人なんて初めて見たものだけど、人から与えられる愛を受け流して生きている彼の様な人間はそれだけ鈍くできているのかもしれないと私は思った。
「女の嫉妬は怖いんだから」
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