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「うん」
「あなたと付き合っているなんて知れた日には、全ての女を敵に回す様なものでしょう。そんなの恐ろしくて無理」
私ははっきりとお断りの返事をした。それなのに、彼は柔和で、麗しい笑みを浮かべたまま、学級日誌を仕上げるという仕事の邪魔を止める気配を見せない。
「それが断る理由なら、気にしなくて大丈夫」
断言された。彼は笑っている。私は再び首を傾げる。
私は無理と言ったのだ。それなのに振られて笑う男なんて、一体何を考えてるのか分からない。理解できない。
「君は、僕が守るから」
え? と思った時には彼の手が私の頬に触れていて。
その時、突然私達のいる教室の扉ががたっと揺れる音がした。シャッター音と共に。そっちに視線を向けたが、誰かが入って来るわけではなく、反対にばたばたと教室から遠ざかる足音が人気のない筈の校舎に響いていた。
「なんなの……」
「僕ね、校内にストーカーがいるんだけど、彼女達って律儀でね。校舎出るまでしか活動しないんだよね」
「うん?」
何の話だ。彼の手は私の頬に当てられたままだ。
「僕の行動を何人かで交代しながらずっと見てるんだ。だから今も見てたんだろうね」
私は何が起こったのか、把握した。
「じゃあ今のは」
「最近のストーカーってストーキングをファン活動って言ってるみたいで会報誌とか作って発行してるんだって。会長が僕の所にきて校内活動だけに限定するから許可してほしいって言うもんだから別にいいよって言ったらね。その日から毎日何人かが交代で僕の隠し撮りとかと一緒に、素行とか逐一、全会員に報告されてるんだってさ。うっかりお昼休みにベンチで転寝してた時は号外が出たって。足の裏とか普段は見れない部位が露出してたとかで彼女達は泣いて喜ぶらしいんだ」
「ストーキング……?」
「僕がキミにキスをしようとした瞬間だったし、速報で号外が出るんじゃないかな」
全身の血の気が一気に、大潮のように引いていく。頭の中に構成された見出し一面は『王子、衝撃のキスシーン』とかそんなところだ。相手の女の情報もきっと事細かに一面掲載されるに違いない。そこまで想像するのは簡単だった。
「ちょっと、なんてことを」
一度引いた血の気がビッグウェーブのように戻ってくる。混乱の気持ちと共に。
「だから、大丈夫だよ」
私にとって大事件だというのに、あっけらかんと言い放つ男の神経を疑う。
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