第1章

4/9
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「なんてことをしてくれるのよ」  私の平和な高校生活の法則が乱れる。勉強して、友達と話して、合唱部で伴奏者として青春の汗を流して、というルーチンワークが、突然の人気者の襲撃という事件により、崩壊してしまう。  明日から、私は校内で奇異の目に晒されることになってしまうのが確定してしまったのか。混乱は、私からリアクションを奪う。何も言えなくなる。  その上、目の前の男は青くなっていた私にとどめを刺しにくる。 「でも、彼女達は最初から見てたんだから僕の告白を断ったという時点で、キミは彼女達のファンクラブ会報の一面に載るのが確定しちゃってたからね」 「は」 「僕のことを振った女だって、いろいろ書かれただろうね」  脳内の紙面一面の見出しが『王子、衝撃のキスシーン』から『特報、王子を振った女の正体を暴く!』に差し替えられる。  正直、どっちもどっちだ。 「……勘弁してください」  絞り出した声は、いい加減、キスするふりをするために触っている頬から手を離してください、という意味もこめていたのだけど、それは叶わなかった。 「学級日誌が書けないので、もう勘弁してください」  もう少し、意味が伝わるように懸命に告げた。けれど、それに対する返事は彼の微笑という、ある意味拷問の様なものだった。彼は私が逃げ出すのを許さないつもりだと悟った。  私を見る視線から逃げ出したい。顔が熱い。 「ねえ、だから、僕が守るからさ。彼女になってよ」  どうしてこの人は、私の事が好きになってしまったのだろう。にっこりと至近距離で微笑む完璧超人な彼にときめかないように頑張ったけれど、そんな事は不毛な努力だった。  無駄な抵抗はやめなさい。結局私はそう宣告する目に無条件降伏してしまった。 「告白したら、キミという彼女が僕にできるって言っただろう」  みんなの完璧王子だった彼に彼女なんて出来た日には、それが彼の欠点になるに決まっているのに。私が彼女だなんて、彼にとっての欠点にしかならないだろうと、マイナスのことしか思えない。こんな卑屈な女が彼女なのだ。だから、彼の私に対する好意は、彼の欠点なのである。  触れられた唇がとても冷たく感じたのは、きっと私の顔の熱がとんでもない熱さになっていたからだ。……多分。  キスしている場面を誰かが見ている気がする。きっと彼のファンという名のストーカーだろうけれど、もうどうにでもなれだ。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!