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彼女が学級日誌を書き終わるまで待って、固辞する彼女に半ば無理やり付いて行くようにして一緒に下校した。
「あの、送ってくれて、ありがとう」
玄関に入る前に少し背の小さい彼女が、頬を少し赤くさせて上目遣いでお礼を言ってくれた。その仕草が本当に可愛くて、僕の心臓は何度でも彼女に打ち抜かれる。
「どういたしまして。……あのさ、今日はもう出かけないよね?」
一応の確認をとる僕に、門戸に手を掛けた彼女が何故そんな事を言うのかとばかりにまた首を傾げる。
……ああ、また打ち抜かれた。彼女は本当に可愛い。もしこれがゲームだったら、残機がいくらあっても足りないなあと馬鹿みたいなことを考えた。
「いや、もう外も暗いから」
とってつけたような言い訳に彼女は、ふふと微笑んだ。
ああ、やっと笑ってくれた。僕が彼女に告白してしまった瞬間から彼女は表情をこわばらせてしまったのだ。いつも見ていた彼女のはにかんだ笑顔に、僕はどうしようもなく惹かれていたのだ。好きになった、と自覚したのもその笑顔を僕に向けてほしいと願う気持ちに気が付いたからなのだ。他の誰でもない、彼女の笑顔が欲しくなったのだ。
そして今、僕の彼女となった彼女の笑顔が間違いなく、僕だけのために僕に向けられている。
ああ神様。こんなに嬉しい事はない。
感慨に浸る僕に、彼女は不思議そうな顔をしたのだが、すぐに口を開いた。
「今日は、遅くなっちゃったので、勿論もう出かけないです」
その言葉にほっとする間もなく、彼女は僕にまた一発お見舞いしてくれる。
「気を付けて、帰って下さい。……その、今日はびっくりしたし、明日から学校へ行くの怖いけど。あなたが守ってくれるって言うなら信じるから。……それじゃ」
信じる。好きな子からそう言われることがこんなに素晴らしい事だったなんて。
余韻に浸る僕を置いて、彼女は門戸を開けて自宅へと帰って行った。
一人になってもまだにやける顔を引き締めて、僕は踵を返した。
――自宅へと帰る足取りはいつもと重さが違う気がした。本当は浮かれてスキップでもしたい気分だったけれど、僕の足取りは決して軽くない。寧ろ、最前線へと従軍する戦士のように重たい決意を秘めて、僕は歩くのだ。
正面から来る人が、僕を避けていく。決意の漲る僕の姿から気迫が漏れているのだろう。
「彼女を守るんだ」
口に出して、その決意を新たにする。
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