第1章

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「彼女を守る」  繰り返して、小声で口にした。自分に言い聞かせるために。 「僕の全てを使ってでも、彼女を守らなければいけない」  今度は、少し大きめの声で、人に言い聞かせるために口にした。 「――というわけだ。クロ、頼んだぞ」 「御意」  帰路に着く僕の背後に、いつの間にかぴったりと付いてきていた黒子が返事をする。僕の声を聞いていた彼女なら、その決意が並々ならぬものであることを理解しただろう。  背後に存在していた影は、来た時と同じようにいつの間にか姿を消した。  忍者の存在を喜ぶ外国人がこの者の存在を知れば狂喜乱舞するに違いない。歴史に名だたる忍者の末裔であるこの人間が――僕の家系には代々当主となる人間には服部家という忍者血筋を引く者がこうして付いているのだ。優秀な忍である彼女ならば、問題なく仕事をこなすだろう。  校内では、僕のファンクラブ会長という立場に身を隠して実に優秀な仕事をしてくれている。この者の言葉を借りれば、他のファンに対する僕についての情報漏えいはある意味作戦であり、普段から校内の状況を理解するのに役立つ情報を持ってきてくれる女生徒へのご褒美、というわけらしい。  彼女に与えたのは学校から帰宅するまで、僕達二人……つまり彼女の事を尾行していた男の正体を突き止めろというミッション。結果報告は明日までには上がって来るだろう。  彼女がストーキングされている。そう気が付いたのは、僕が彼女のことを見ていたからだ。  監視カメラ。盗聴器。付け狙う視線。  危機管理能力を磨かなくてはならないのは、時代が時代であればやんごとなき身分にあった名家と言われる家柄に生まれ付いた定めだった。正直、人を疑うことなど好きではないから、いろいろなことを学ばされることについて嫌気がさしたこともある。  しかしそんな経験から、彼女に対して卑劣な行為を行っている人間がいるのだと気が付いたし、彼女を守るために行動することができるのだ。  僕の存在が、知識が、経験が、彼女の役に立つのだと分かった時は、僕は生きる理由を悟った。この時ほど己の運命に感謝したことはない。  彼女が日直となり、学級日誌を書く日は必ず放課後一人で残っている。それを知った瞬間に今まで何も起きなかったことに安堵したものだ。  彼女は何も知らない。普段から視られていることも、聞かれていることも。それも校内限定で。
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