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そういう訳で慶佑はここにいるのだが、呼び出した当の本人がいない。
もう一度足を進め、机に目をやると、数学の教科書や問題集、書類などが積み重なっているのに気づいた。
窓が開けられていて湿った風が流れ込み、カーテンが揺れる。
すぐに戻ってくるだろう。部屋の端に寄せられていた椅子を持ってきて腰掛けた。外をぼんやりと眺める。この教室からは校門がよく見える。
「お、もう来てたか、ごめんごめん」
ふいに後ろから声がして、奥苑先生が教室に入ってきた。
「参ったよ、職員室で教頭先生に捕まっちゃって」
先生は座ると顔だけを慶佑に向けた。
奥苑先生は優しい。物腰は柔らかく、常に笑顔を絶やさない。『奥苑先生が怒ったら槍が降る』という噂もあるくらいで、頭ごなしに叱りつけることは絶対にない。
うちの親父と同年代と言っていたが、とてもそうは見えない若々しい外見で女子生徒からの人気も高い。
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