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完璧な人だった。
もちろん、それは僕にとってのことだけれど、少なくとも僕の周りで彼女を悪くいう人はいなかったし、偏屈な僕の父親や心配性の母親に紹介したときだって、不満の声は一つもあがらなかった。
だから、今日みたいに親戚や友人が集まる晴れの日にも、誰もが彼女に笑いかけ、涙すら浮かべて彼女の元へと集まっていた。
僕はというと、残念ながらその人たちの中に入っていくような気力もなく、大広間の隅にある椅子に腰を下ろし、重苦しいため息をついた。
「ねえ、どうしたの?」
不意に声をかけられた。
顔を上げると、彼女が僕を見下ろしている。
少しの間言葉を失った僕は、ややあってから少し照れくさくなって笑みをこぼす。
「別に」
「別にじゃないよ。せっかくみんなが集まってきてくれたのに、たっちゃんがそんな顔してちゃ台無しじゃない」
「そんなこと言われてもさ、楽しくなんて振る舞えないよ」
ぶっきらぼうな僕の言葉に、彼女は困ったような顔をして、しかし暖かく微笑んだ。
「楽しくしろなんて言ってないよ。いつも通りでいいんだから。みんな、いつものたっちゃんに会いたくてきてくれたんだから」
「みんなは君に会いに来たんだよ」
「そうかもしれないけど、これでも私たち夫婦なんだよ。籍はとっくに入れてるんだから」
確かに彼女の言うとおりだと思った。
夫婦である以上、彼女一人に責任を押しつけることもできない。
僕は会場にいる人たちをぐるりと見渡した。
僕の両親も、兄弟も、名前が思い出せない親戚だって参列してくれている。
彼女の両親ーー特にお母さんなんかは、泣きすぎて訳がわからなくなっている。
「この日のために、みんな忙しい時間を削ってきてくれたんだもの、あなたがちゃんとしなきゃいけないで?」
彼女は再び柔らかい笑みを僕に向けた。
そう、彼女はいつもこうやって僕の背中を押してくれる。
いつだって僕の味方でいてくれた。
出会った日からずっとだ。
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