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彼女はおもむろに取り出したハンカチで口を押さえると、彼氏の腰掛けるソファの後ろからスプレー缶を取り出した。
「でも、彼氏って一人じゃなきゃいけないってことはないわよね? 結婚しているわけじゃなし、若いうちは遊ばなくっちゃ」
「それはどういう意味なんだい? うっ!」
スプレーからの噴射を浴びて、僕の意識が遠のいた。何か麻痺系の薬品には違いないのだろうが、僕の思考は急速に停滞し始め、それを特定することすらかなわない。しかし、崩れ落ちた僕を見下ろす彼女の口から出た次の言葉に、僕がこれからどうなるのかだけははっきりと理解した。
「ごめんなさいね。あなたを彼氏には出来ないけれど、ボーイフレンドにならしてあげる。あなた、彼と違って可愛いんだもの。美しさと可愛さって、どちらも選び難いものでしょう? うふ、ふふっ、ふ」
彼女は、最初からそのつもりだったのだ。だから僕に見せたのだ。それはそうだろう。こんなものを見た僕が、そのまま普通に帰宅するなんて誰だって思わない。
「さぁ、また頑張らなくっちゃね。きれいに皮を剥ぐのが一番大変なのだから。収縮を予防するのも難しいけど、二回目だからもっと早く出来るはずだわ」
喜々として弾む彼女の言葉を浴びながら、僕の視界は暗闇に染まっていった。
~END~
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