愛でる

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「ええ。彼、私の大学の同期なのよ。私の恋人になりたいんですって。でも、それは無理だからって断る為にお連れしたの。だって、あなたさえ見てもらえば、すぐに納得出来るはずだもの」 「ははは。なるほどね、と納得してしまうのも面映ゆいものがあるけれど」 「何も謙遜することなどないわ。だって、事実なんだもの」 「ふむ、謙遜とは少し違うが、確かに小さくなるようなことでもないね。それより彼、きみを気狂い呼ばわりしているけれど、いいのかい?」 「あら、どうしてかしら? 彼にも分かるはずなのに。分かるでしょう? 一般的な美的感覚を持っているのであれば、彼がどれほど美しいか、ひと目で理解出来るはずだわ」  彼女は男の組まれた足にしなだれかかると、僕にとろりとした目を向けた。僕は同意を求められている。それも、全くずれたポイントで、だ。  確かに、その彼氏の容姿は非の打ち所がないものだ。街行けば誰もが目を奪われてしまうことだろう。老若男女、世代も性別も飛び越えて、人を惹きつけてしまうほどの美しさ。完璧であるがゆえに、それはあまりにも不自然な美しさだ。 「これで分かったでしょう? この彼氏がいる限り、私は他の誰ともお付き合いなど出来ないの。私の心は、いえ、身も心も、ね。全てが、この彼のものなのよ」  彼女が男の手を取り愛おしそうに頬ずりした。その光景に、僕の心が恐慌に襲われ絶叫している。
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