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嘘をついてもしょうがないので、そこは正直申告で。でも、こういう癖って、霊同士ならまだともかく生前だったらトラブルの素になったりしなかったのかな。なんてったってジュンタさんだし、嫌がる人ばっかとは思わないけど、逆の意味でトラブルになることもありそうだし…。
「アキちゃん、誤解があるみたいだけどね。俺だって誰でも触るってわけじゃないんだよ」
わたしの思考を読んだジュンタさんが心外そうに言った。
「ええまぁ、それはそうですよね」
さすがに。
ジュンタさんがわたしの隣で同じように膝を抱えて、思案するように呟いた。
「でも、思えば人間として普通に生きてる時は、全然こんな癖なかったような気がする。霊の時だけだよ。ていうか、本当最近だな、うん」
「そうなんですか」
「不安なんだよ、何となく」
「うん?」
ジュンタさんはわたしの顔を覗き込んで、小さく微笑んだ。
「しっかりした感触のあるものに触れてると、何だか安心するんだ。霊の時は壁や物もどうかすると通り抜けちゃうし、感触も頼りないし。人間だって余程波長が合わない限り触れられない。ずっとそういう風に過ごしてると、何だかだんだん自分が薄くなって、消えていくんじゃないかって思えてきて…。その点、霊同士はしっかり干渉するから。通り抜けないし、生きてた時の人間同士みたいな感触があって、すごくほっとする」
わたしはジュンタさんの顔から目を離さず、黙ってその話を聞いていた。ジュンタさんが自分の話をするの、初めて聞く気がする。
でも、すごくわかる。わたしも、チサトさんや先輩にいろいろ言われても、ジュンタさんに触れられるのがどうにも嫌と思えないのは同じ理由なのかもしれない。初めてジュンタさんの手の感触を感じた時、すごく安心した。自分が幽霊なんて頼りない状態になったことを、何とかあれで受け入れられたんだと思う。
触れようと思えば触れられる相手がいる。その事実だけで何だか救われる。
不意に、ジュンタさんがいつも通りの悪戯っぽい表情になった。
「…それに、好きな子にはいつだって触っていたいからね」
「そうでしょうね」
だんだんわたしも慣れてきました。軽くスルーしてもう一度前に目を向けて、夕陽を…、と思ったら。
「…あ」
わたしの声にジュンタさんもそちらに目をやる。
「沈んじゃう…」
もう太陽の姿は山あいに沈み込んで半分も見えない。ここまで来ると、あと早いんだよね。
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