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「はぁぁーーーーーー?!!」
社食のフロア内に叫び声が響く。
「先輩、声が大きすぎます」
私はシッと人差し指を口に当てた。
わが社の社食はそんじょそこらの社食ではない。有名店監修の絶品定食が手軽な値段で食べられる。連日テレビに取り上げられ、社外の人も利用できるとあって、広いフロアを埋め尽くす人、人、人。
そんな何百という目がこちらを捉え、一瞬ざわめきが止んだ。
「だって、あんた!」
先輩が何か言いかけたけれど、私は食後のお茶を飲みほすと手を合わせ、小さく「ご馳走様でした」と言った。
その間に周囲の関心はそれぞれ別のところに移り、広大なフロアはいつも通りの喧騒を取り戻した。
「海外事業部の蓮見さんにコクられたって?!」
先輩は、手早くテーブルを拭きトレーを下げようと立ちかけた私の手首をなかなかの力で掴んだ。
「座りなさい! 話を聞くまで離さないわよ!」
そう言う先輩はこの席に着いてから喋り通しで、お皿にまだまだ食べ物が残っていた。 私はため息をついて席に座る。
「先輩、とりあえずご飯を先に食べちゃって下さい。みんな席が空くのを待っているんですから」
先輩は口いっぱいにおかずを頬張りながら、「で?」と切り出した。
「なんであんたばっかり、そんなにモテるのよ? この間だって営業部の一番の優良物件を下らない理由で振ったばかりじゃない」
‘’食べ方が汚ない‘’
私が一ヶ月しか続かなかった元彼と別れた理由が、これだった。
「先輩。食べながら喋る事と、優良物件という表現が下品です」
先輩は顔をしかめたけれど、残りをもくもくと口に詰め込み、飲み込んでから続けた。
「それで? 蓮見さんにはどう返事したのよ?」
「まぁ、ひとまず付き合うことになりました」
「なーにがひとまずよ! 蓮見さん狙いの女子社員に聞かれたら殺されるわよ」
「特別彼を好き、という訳ではなかったのですが、押しが強かったので。とりあえずです」
先輩は、『ムッキー!!』という表現がぴったりな態度を取ったあと「蓮見さんと同じレベルの男を紹介しなさい!」と無茶苦茶な台詞を吐いた。
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