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ーー次の日
当然のことながら、私は先輩からの追求を免れなかった。
「で?」
リポーターのマイクよろしくスプーンを握りしめた先輩がズイッと迫ってくる。
『で』の一文字でこれだけの迫力を出せるのは大したものだと思う。
「ちょっと、先輩っ! お行儀が悪いですよ!」
私は手をクロスさせてガードしながら先輩の素行を注意する。
こんなやりとりが展開されているのが懲りずに社食なものだから、いらない注目を浴びてしまう。
「あんた達カップルは、今や社内の噂の的よ?」
「……」
八割位は先輩のせいだと思いますけど。
「……いただきます。」
私は静かに手を合わせる。
「社員は男も女もみんな悲鳴あげてるわよ。悔しいからあんまり言いたくないけど、美男美女でお似合いだから、誰も文句が言えないだけで」
あ、おいしい。
今日私が選んだのは鰈の煮付け定食で、ふんわりした身が上品に味付けされていた。
「で? 何か、変な性癖とかあった?」
「ぶっ!」
いきなりの台詞に、向かいに座る先輩の顔目掛けて吹いてしまった。
「ちょっと!」
「あ、すいません」
ああぁ、こんなとこお祖母ちゃんに見られたら卒倒するわ。
「昼間っから何言ってるんですか」
先輩はハンカチで顔を拭きながら「だって、そうでしょう?」と続けた。
「イケメンエリートなのに浮いた話もない。社内で告白されても 誰にも靡かなくて、ゲイ疑惑もあったくらいなのよ? 変な性癖の一つや二つでも無ければ、あんな上玉が独身でいる説明がつかないわよっ」
「はぁ……」
エキサイトした先輩の顔がどんどん近づいてきて、私は今やのけ反るような姿勢だ。
「昨日は食事しただけですよ」
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