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「手打ち蕎麦をお持ちしました。そちらの鴨だし鍋の〆にお召し上がりくださいね。それから、お酒の追加はいかがなさいますか?」
「……お願いします」
先輩の推理は外れたようだ。
女将は若く見積もっても六十は超えていると思う。若女将が裏にいるのなら話は別だけれど。
女将が居なくなると私は蓮見さんに声をかけた。
「お蕎麦、美味しそうです。まず先にお鍋を食べちゃいましょうか」
「……っ」
私の言葉に、蓮見さんは無言で。
親の敵でも見るように鍋を睨んでいたけれど、意を決したように箸をつけた。
ポロッ
ポロッ
「「……」」
ん?
彼の箸使いはとても綺麗なのに、なぜか全く具材を掴めなかった。
じわじわと、蓮見さんの顔が赤くなっていく。
「……もしかして、お箸、苦手ですか?」
「……」
箸を持ったまま暫く固まっていた蓮見さんは『はぁぁぁ』とため息をつくと箸を置いて、そして一言「苦手です。」と言った。
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