極上肉

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極上肉

 市内で開催された肉料理フェスで、素晴らしく美味い肉を食った。  焼いた肉に軽く塩・胡椒をかけただけの超シンプル料理だったが、それがかえって肉の美味さを最大限まで引き出していた。  大食漢の俺は、その日だけでキロ単位の肉を平らげていたけれど、ともかくそこの店の肉に魅了されて、フェスの期間中、通える限り店に通った。そのおかげで店員さんとも仲良くなり、色んなことを教えてもらった。  話によると、この店の肉は、養豚の専門家達が寄り集まって作り出した新たなブランドポークということだった。  まだまだ研究段階のため、市場には出回っていないが、こういう臨時のフェスなどに申し込み、客の反応を見ているらしい。 「ということは、普段この肉を食べたいと思っても、どうにもならないんですね」  市場に流通してないし、専門で扱っている店もないのでは、食べたいと思ってもどうにもならない。こういったフェスが行われるのを待つしかないということになる。  俺のがっかりぶりは相当だったらしく、店員さんはさも申し訳なさそうな顔になった。でもその後に、すぐさま俺にこうささやいてきた。 「そうまでウチの肉に惚れこんでもらえるのは嬉しい限りですね。もしお客さんがよかったら、私の方から育成現場の方々に、特別試食会員になれるかどうか、聞いてみますけど」  聞き慣れぬ言葉をおうむ返しにすると、店員さんはその、特別試食会員とやらについての説明をしてくれた。  聞いていたように、ここの肉は研究段階だから、一般向けに味の反応を見るのはこういったフェスの場でだけだが、定期的な味のチェックも必要なので、味覚の鋭い知り合いに頼んでその役を引き受けてもらっているらしい。  むしろこちらからお願いしますと訴えると、すぐに店員さんは現場の人達に連絡を入れてくれた。その結果、俺はめでたく特別試食会員になることができた。
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