その老人

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恐らく今月最後になるだろう飲み会の帰り道を歩いていた。別に大して行きたいわけでもない飲み会だが付き合いというものがあるわけだ。 酒はそんなに好きではないし、酒を飲まなければ盛り上がれない人間関係にも嫌気がさしている。 刺激のないこの毎日、ちょうどよい距離を保っての人と付き合い、単位のために興味のないものを勉強する 日々。そんな薄っぺらいものだらけの中で俺はなんとか大学生をやっている。 飲んでる時はいいがひとりになると嫌でも現実を突きつけられる。今の一番の問題は薄っぺらさでもなんでもなく金だった。今回もまた飲み会で無駄なお金を使ってしまい、今月の残りはかなり苦しいだろう。先月もよりももっと苦しいなあ。そんなことを考えていた俺はふと電柱の張り紙に足を止めた。 「秘密、売りませんか?」 どうやら比較的最近張られたものらしく、電柱と比べ綺麗な張り紙にこう書いてあった。その下には要予約という文字の後に続いて電話番号が書かれていた。 いつもならただ見過ごしていただろうが今の俺にとってその張り紙はとても魅力的だった。もちろん危険な商売であろうという予感はあった。ただ今はバイトだけでは足りない支出をどうにかすることが優先だった。 電話をかけて危ない仕事のようであればすぐにやめよう、と自分に言い聞かせた。 俺は張り紙の写真を撮り、家に帰ったのだった。
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