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まだ辛うじて残っていたシャツの上にクローゼットから取り出したベージュのジャケットを羽織る。
二の腕辺りに顔を摺り寄せ、さらりとしたベルベットの生地に目を閉じる。
部屋の明かりは付けたまま、テレビの音がリビングから溢れる中を素知らぬ顔で通り抜け鍵さえ閉めずに外へ出た。
「ちょっと、冷えてきたかな…」
広い通りへと続く街路樹は滑稽な姿を露わにしていて、路面には足を滑らせてしまいそうなほど多くの衣が枯れ落ちている…
行く場所なんて無かった。
行きたいと思える場所も…
けれど、1人になるのは嫌だった。
人の気配すらしないキッチン、自分以外は使う事の無い風呂、ほったらかしにした筈の物が知らぬ間に片付けられている事も、まるで自分だけが置き去りにされているかのように感じて堪らない…
そんな事が頭を掠めると足取りは更に遅くなった。
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