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彼女がそう言って、また青い空を見上げた。その顔の角度は、彼女の最も美しく見えるものだった。
「きっと都会に行ったら、空が濁っているから」
だから彼女は、いつも空が見える仕事を生業とした。
「きっとあの星が、本当の地球なのよ」
彼女は、この世界が汚れているという。そして、彼女にしか見えない星が、本当の地球だというのだ。
「わたしの瞳に映る地球を、君にも見せてあげたい」
あの淡碧の空にあるという円い星だ。現実を虚構に導き、妄想という夢を永遠にと願う、本当の地球である。
彼女は何年も貧しい生活を続けるので、婚期も遠のいていった。周りの大人は縁談を持ちかけるが、彼女は首を縦に振らなかった。その理由を知っているのは僕だけだ。
僕は彼女だけを見つめていた。
いつも仕事の帰りに、彼女が住むアパートの前を通る。
「あの星は見えるかい?」
「今日も、あの星は見えるわよ」
アパートの窓辺から、美しい彼女が答える。
それは倖せそうな顔だった。あの空のように澄み渡った表情だ。それに比べて、僕の心は暮れなずむばかりだ。
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