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努力をしようと、彼女は冷めた目で見ていた。
夕方、公園の鉄棒で逆上がりをしようとして失敗していた私を、どうしようもなく擦れた目で見ていた。
私はそんな羞恥に耐えれる精神を、生憎持ち合わせてはいない。
当然、彼女は見過ごさなかった。
「それじゃあ小学校の時、どうやって逆上がりのテスト合格したの?」
「努力した。腕の回し方や脚の丸め方、鉄棒の握り方やらをこの地面と一緒に学んだんだ」
秋が深まり、冬の寒さを告げる大雨はもう降り終わっている。
寒さ対策のごわごわした紺色のダッフルコート。
何度も土に塗れ、茶色になっていた私のダッフルコート。
お互いを比較すると、とんでもなく私が馬鹿馬鹿しく思える。
「なら、今はどうなのよ」
「逆上がりが出来ない人間になりました」
彼女は私を『一時の努力をした人間』と評価したでしょう。
実際問題、現在今逆上がりが出来ていない。
助けを求めようと彼女を見つめれば、相も変わらず蛇のような目で睨み返される。
私は掌の体温でヌルくなった鉄棒を掴む。
「何度だって、諦めるもんですか」
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