第5章  胸に抱えるもの(続き)

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窓辺に立った彼は、ここに越して来て以来、毎晩しているように ぼんやりと隣の小さなアパートの窓に視線を落とした。 その視線の先では、昨夜と同じように カーテンの隙間から愛しい人の部屋の明かりが細く零れている。 だが、きっと今夜は、昨日とは違うのだろう。 あの恋する笑顔が、今もあの見知らぬ男に向けられているのかもしれない。 その彼の言葉に、楽しげな彼女の笑い声が返っているのかもしれない。 いや、もしかしたら肩を寄せ合い、 静かに二人だけの時を味わっているかもしれない。 「セリーシャ……」 切ない呟きと共に、窓に乗せた拳に力なく額が寄り掛かる。
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