第5章  胸に抱えるもの(続き)

12/13
前へ
/38ページ
次へ
とてつもなく、彼女を、今この胸に抱きしめたかった。 抱きしめ彼女の温もりを感じ、あの柔らかな髪に鼻を摺り寄せ 甘やかな香りを嗅ぎたい。 滑るような頬に手を寄せ、甘く甘く長いキスを交わしたい。 愛しげに微笑む彼女の笑顔を、自分の瞳にだけ映したい。 「愛してる」 狂おしいほどに恋い焦がれる想いを言葉に乗せて、大声で叫びたい。 なのに――。 やるせない思いに、思わず奥歯にぐっと力が籠る。 その時、視線の先の細い明かりが、ふっと吹き消すように消えた。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加