第6章  埋まらない距離

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この日の午後には、エイオースで例の香水の外箱デザインの打ち合わせが 待っている。 デザインそのものは週末前に仕上げていたので、問題はない。 だが、やはり彼女を前にするのは気が重い。 忍は、窓の外に投げている沈んだ眼差しそのままに、 我知らず、零れ出るため息を声にしていた。 「朝比奈さん、もしかして体調、悪いんじゃありませんか?」 えっ? 思いもよらない言葉を秘書から投げかけられ、 忍は、ぼんやり彼女を振り返った。 「だって、今朝からなんとなくだるそうだし、 溜息だって、ずっとつきっぱなしですよ」 このところ、仕事が混み過ぎているから。 現実の問題でもあることを口にして、どこか心配そうに小さく眉根を寄せる。
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