第6章  埋まらない距離

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「エイオースの打ち合わせ、一日延期可能かどうか聞いてみましょうか?」 だが、近づく台風の懸念を理由にしようとする彼女に 忍は、苦く笑ってかぶりを振った。 「いや、大丈夫だよ。ほら、台風なんか来るから少しだるいだけ。 デザイン画も、車で行くから問題ないから」 事実、仕事の量的には決して楽ではないが、無理をしているほどでもない。 体調だって、多少の寝不足は否めないが、悪いわけではない。 それに、やっぱり朝比奈 忍の名に懸けても、 どんな理由にせよ、仕事のスケジュールを遅らせることは 彼のプライドが許さない。 ただ、忍のすべてを重くしているのは、胸を締め付けるこの気持ちだけ。 そしてそれを、すべて台風という大きな低気圧のせいにした。
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