第6章  埋まらない距離

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結局、忍は、食べる気にもなれない昼食を抜いたまま 午後の打ち合わせに、エイオースのオフィスへと向かった。 しかし、いざ打ち合わせに入ると同時に、 ありがたくも仕事は、彼をプロの顔に戻させた。 商品のキャッチコピー。 CMの絵コンテに、それに付随するナレーション。 そんなものを耳や目にしながら 忍は、準備したデザイン画を議論のデスクに広げていく。 外は、どうやら本格的に嵐が近づいて来ているらしい。 はめ殺しの窓ガラスに雨粒の音が重たくなり、 時折、細く風が唸る音も聞こえてくる。 しかし、波に乗るように熱の籠ったこの会議室では、 それもBGMにすらなっていなかった。
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