第6章  埋まらない距離

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だが、どうやら旧友のこの言葉に他意はなかったようだ。 「あれ? 違ったか? 住所が近かったから、てっきりそうだと思ったんだけど」 あぁ――。 社員同士ならば、互いの住所くらいは知っていても当然か。 忍は、平静を装う心の中で、フッと苦笑を淡く漏らした。 そして、もちろんこの状況は、彼に断る余地など与えてもいない。 「ああ、わかった」 にわかにチクリと胸を刺すものがなかったと言えば、嘘になる。 だが一方で、すっかり仕事の顔に戻れたお蔭で、 昼前まで彼を捉えていた動揺からは解放されていた。
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