第6章  埋まらない距離

17/25
前へ
/38ページ
次へ
再び伏し目がちに曇る彼女の顔に、忍は小さく焦燥を憶えた。 自分まで、彼女から笑顔を奪うなんて――。 だから、とにかく彼女の微笑みを取り戻したかった。 「そんなに難しく考えることはないよ」 俯いた彼女を視野に感じつつ、忍の声が自然と優しくなった。 「要は、切なくても、愛しくても、 『恋』って、結局は隠し切れないエゴじゃない。 だからその熱い想いは、何かと溜息をつかせる。 そんな焦がれる胸が相手の温もりを感じると、 心に得も言われぬ艶が浮かばない?その温もりが体温なら、尚更さ」 はあ……。 忍の言葉を噛みしめるように、彼女は俯けた眉根をわずかに寄せる。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加