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「たとえ恋をして、その想いが通じたとしても、
十歳のキスは、パパやママとのキスとそう変わらない。
でも、今、君が好きな人とキスをしたらどう?」
「えっ……?」
忍の視界の中で、彼女がわずかに顔を強張らせると同時に、
目の前で信号が赤に変わった。
忍は、ゆっくりと視線を彼女に合わせ、真っ直ぐに彼女を見つめた。
「恋をする大人のキスは、胸を締め付けるほどの幸福感と
体を熱くする甘美がない?
例えそれが、想いだったとしても、その人を抱きしめ、
熱い吐息を耳元でつかれたって想像したら
それだけでも『恋』っていう想いは、艶を帯びない?」
艶――。
再び呟いた彼女の顔が微かに曇り、視線が俯いていく。
そしてその様子が、またしても彼の胸を締め付けた。
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