第6章  埋まらない距離

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「たとえ恋をして、その想いが通じたとしても、 十歳のキスは、パパやママとのキスとそう変わらない。 でも、今、君が好きな人とキスをしたらどう?」 「えっ……?」 忍の視界の中で、彼女がわずかに顔を強張らせると同時に、 目の前で信号が赤に変わった。 忍は、ゆっくりと視線を彼女に合わせ、真っ直ぐに彼女を見つめた。 「恋をする大人のキスは、胸を締め付けるほどの幸福感と 体を熱くする甘美がない?  例えそれが、想いだったとしても、その人を抱きしめ、 熱い吐息を耳元でつかれたって想像したら それだけでも『恋』っていう想いは、艶を帯びない?」 艶――。 再び呟いた彼女の顔が微かに曇り、視線が俯いていく。 そしてその様子が、またしても彼の胸を締め付けた。
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