第5章  胸に抱えるもの(続き)

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彼女は、あの男に恋をしている。 しかし自分は、そんな彼女の気持ちを振り向かせる(スベ)を 何一つ持ってもいない。 いやそれどころか、仕事絡みだったとはいえ、 彼女の今の恋を煽るような事まで、けしかけてしまった。 濃厚なセックスの翌朝に、匂い立つような艶だよ。 恋い焦がれる相手となら、自然とそうなる夜だって一度や二度あるだろう? 忍は、再び大きくため息をついて、頭を抱え込んだ。 何をやってるんだ、僕は……。 自分の愚かさと情けなさに、言い様のない腹立しさがこみ上げる。 「くそっ!」 苛立たしげに髪を掻き乱し、忍は、乱暴に背もたれに上体を投げ出した。 そして再び彼の大きなため息が、ガランとした広いリビングに消えていった。
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