忘年会篇  第1章 二十歳の冬

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「おい、木砂! ボーっとしてんなよ。部屋番号わかんなくなるぞ!」 「え? ちょっ」 グンと有無を言わさず引っ張られた。 大俵さんが俺の視線の先、みたいな繊細なことに気がつくわけがない。 酒大好き、一気飲みが得意で、噂じゃピッチャーでもいけるとか。 もちろん宴会も大好き。 だから、早く騒ごうとガハハ大笑いしてる。 玄の友達。 男ばっかじゃないだろう、なんてのはわかってた。 俺に紹介した友人っつうのが男だったのは、あいつが仲良くしてるのが男だけってことで、あいつに話しかけたい、あいつと友達になりてぇって女が皆無ってことじゃないのはわかっていた。 あのじーちゃんが大学教授とかなら あれはクラス? 学科? 大学なんて行ったことねぇからよくわかんねぇけど、ようはそういう集まりなんだろ。 だからこそ、女も混ざってるんだろうし。 玄の名前で予約してるくらいだし、俺が忘年会をここでするって知っているからこそ、ここであいつも飲もうと思ったんだろ。 飲み会行ってくるって言ったことへのリアクションが薄かったのも、自分も同じ店で飲むから、とかなんだ。 でも、女がいた。 あいつは女がいたって、そんなんスルーする。 女に誘惑されてフラフラするんなら、もうとっくに俺達は終わってる。 大学行って、あのルックスにあの身体、あれだけ頭の良いあいつを女が放っておくわけがない。 アピールされたことがないわけねぇ。 俺は知らないけど、そういうのをかわして断ってきたはずだ。 でも、今、あいつが酒を飲んでる隣の席に、女がいる。 「……んだよっ」 わかってんのに。すげ……ムカつく。 「大丈夫だっつうのっ!」 「は? 大俵さん?」 「今回は! 新人の木砂もいるから、すっげぇ、頑張ったんだぞ!」 「? 何がっすか?」 ニカーッ、と笑って、何でか肩を叩かれた。 よく俺が、やべぇ失敗したかも、って思った瞬間、肩を叩いて笑って、そして、あっという間に組み立て失敗した部品を直しちまう時と同じ。 「フッフッフ」 なんだ? その意味深な笑い。 「十名でお越しの大俵様、こちらになります」 店員がしれっと言った言葉。 は? 十名? どう見たって、五人だろうが。何言って。
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