第1章

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 いよいよ診察も終わり、注射器が出てくると訝しげにそれを見やる。(この頃になると僕は、彼の不思議な行動に動じなくなっていた)  僕の腕に針が刺さる。 彼は微動だにせず立って居るが、先程まで鋭さを持っていた瞳が今は大きく見開かれている。今まで纏っていた雰囲気は、見る影もなく崩れ去っていた。  それを意図せず見てしまった僕は、こっそりと笑った。少しでも油断したら、ふき出してしまいそうだ。無情にも次々と、お腹の底からこみ上げてくる笑いはとどまることを知らず。僕は、喉の奥で笑いを噛み殺しながら、素知らぬ顔で診察を受け続ける。 なるべく、彼を見ないように… 体を真横にひねり、そっぽを向いていた。医者から逃げているみたいで、多少、不自然な体勢ではあるが、こうでもして、彼を視界から、排除しないと、僕は、吹き出してしまいそうだった。 おかげで!?…摂取の痛みを全然感じずに済んだ。  しかし今の一件で、僕は彼が怖くなくなった。 それどころか、彼も一介の人間なのだと改めて感じていた。 今、僕の目には彼が、知らない世界で懸命に虚勢を張る小鹿に見える。  『…しょうがないから、もうひと踏ん張りするか…』 僕は微笑ましく彼を見やった。
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