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清水 景という男が歩いていた。 社会人二年目のその男は、冴えない目をしぱしぱさせて歩道に落ちているものを確認しながら、家路を急ぐ。 片手にはやけ酒用のビールやおつまみが入った袋、片手にはレンタルビデオ店の袋、最強のコンビを早く味わいたい一心で、浮き浮きと歩いているのである。 顔はなるべく上げないように人を避けるというのは、なかなか難しいものだ。 人の顔を見ず、人にぶつからず、歩道と人の間の空気を抜けるように歩く…これは清水景が手に入れた数少ない特技だ。 たまにイレギュラーなものにぶつかったりもするが…木とか、ゴミ箱とか、野良猫とか、停めてある自転車とか。 そう、今日まで清水景は、大したものにはぶつからなかった。 けれど今日はダメだった。 走っている車にぶつかったのだ。 軽々と体がふっとんだ。 意外に痛みは無く、初めて宙を舞う妙な高揚感とともに、意識が遠のいていった。 そしてこんな時でも、 えらいことになった、延滞料金どうしよう…と考えてしまうのは、人の悲しきサガなのだ。 目覚めた時、清水景は変な場所にいた。 周りは夜のように暗いのに、自分のいる場所はほの明るい。 倒れていた体を起こす。床はほわほわとして、妙な感触だ。それに変なニオイがする。 「おはようございます」 後ろで声がした。 ビックリして振り返り… 「うわあああっ」 思わず後ずさる。 こちらを見るいびつな目、目、目。 何の形なのかわからないが、とにかく沢山の置物が大小ずらりと並んである。 「もののけでも見たような声だな、失敬な。これは私のお手製の仏像だ。有難く手を合わせるがよい」 声の主は立ち上がった。手には小さなナイフと木の塊を持っている。 「ぶぶぶ…ぶつぞう?!」 このミイラの出来損ないのようなやつが? とは言えなかったが、とにかく清水景は心を落ち着かせ、状況を判断することにした。 今いるのは、蝋燭が大量に灯され、線香が焚かれ、仏像もどきがひしめきあい、タンスが置かれ、ちゃぶ台が置かれ、屏風が置かれ、刀やらペナントが上に飾られた場所。 その中でさらに異彩を放っているのは、その真ん中に立っている、長い金髪に碧眼の作務衣を着た男。 まるで外国の映画監督の作った、ごちゃ混ぜの日本のイメージのようであった。 「えー…ここはどこ?あんた誰です…?」 男は息を吸い込んだ。 「我輩は神である、名前はまだない!」
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