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私は混乱した。バッグの中を探しても探しても見つからない。
超高層オフィスビルの1階、エントランスホール。面接はあと10分で始まる。秘書職の面接だ。仕事慣れした人間に見られるべく、財布の底を叩き淡いベージュのスーツをそろえた。レジュメもしっかりとまとめた。いつもより少し発色の良いルージュをひいて気合いを入れた。
ただ、あの紙が見つからないのだ。
メールで送られてきた面接の案内には、QRコードのようなものが添付されていた。そのオフィスビルにはゲートがあり、それを印刷したものをかざして入館するそうだ。
私は、この面接にかけている。長年付き合った彼氏にふられ、それが社内恋愛だったため私が辞職した。派遣社員の立場は弱い。この仕事は、採用されて認められれば正社員に登用してくれるという。
元彼を見返すためにも、ここで負けてはいけないのに・・・。
緊張のメーターが振り切れてしまった。意識が遠のき、目の前に床が近づいてくる…。
倒れる寸前、男性の大きな手が私を支えた。
「どうしましたか」
彼は、心底心配そうなまなざしで私を覗きこんだ。
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