第1章

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倒れそうな私を見てビルのインフォメーションデスクから出て来たという彼に、私は全てをさらけ出した。失業してから数社の面接に落ちていることや、もうそろそろ家賃が払えなくなることまで。 「そうでしたか、そうしましたら、なんとかいたしましょう・・・。失礼ですが、お名前は」 「うえき・・・植木あさこと申します」 彼はきびきびとデスクに戻り、受話器を取って素早くダイヤルした。 「お忙しい所失礼いたします。1階受付の近江でございます。ただいま石田様宛に植木様が面接に来られているのですが、来る道でひったくりの被害に会われたご様子です。バッグごととられてしまったようで、わたくしの方でそちらまでご案内いたしますがよろしいでしょうか・・・ええ、はい、承知いたしました」 何事もなかったかのように電話を切ると、彼は私を見てにこっと笑った。 「・・・ということにしましたので、バッグ、帰りまで預かっておきましょう」 自分の入館証で件のゲートを通してくれた彼は、水槽を泳ぐ青魚のように優雅に私を先導した。 エレベーターに乗り込むと、エレベーターガール顔負けの指捌き。腕時計で時間をチェックして、 「大丈夫、5分前に着きますよ」 ことの展開の速さにただただ呆けていると、彼は振り返った。 「追い込まれた人には、強さがあります。あとは、植木さんの気合いをぶつけるだけです」 そして私の脚先から頭まで眺め、小首をかしげた。 ふいに私に近寄り、耳元に口を近づけて言った。 「ちょっと、乱していった方がいいかも」 髪の毛をぐちゃっと撫でる。 「ね、臨場感」
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