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「やだよ、慎先生。あんまり移動が多いからって物見遊山気分になってもらうとさ」
「その通りだ」と慎は武に頭を下げる。
「悪いが一日待ってもらえないだろうか」
「どうにかできるの?」
「空港――いや、航空会社に問い合わせる。出てこなかった時の為に書き直しもする」
「うん、わかったよ」
ふう、と武はため息をつき、両手に腰をあてる。
手帳から航空会社の電話番号を探し、受話器を手にした時、武は吹き出した。
「何か」
「いや」と武は返事をする。
「結構さ、慎先生って抜けてるんだよね。男の僕が見ても美丈夫って言葉は君の為にあるように思うのに。時たま、どうしちゃったのさってポカするだろ。だから憎めないんだよねえ、君って」
「勝手に言っててくれたまえ」
慎はわざと恐い顔を作って番号をダイヤルを一気に回した。
「はい、確かに届いております」相手は言う。
これで書き直す手間が省ける。慎はひとまず安堵した。
「これから取りに行く。急ぎの物なので」
「いえ、それには及びません、こちらからお届けにあがりましょう」
「それはありがたいが……とても急ぐんだ、今日中、今すぐにでも手元にほしい。時間がかかるようなら」
「少しお待ち下さい、折り返し連絡致します」と言って電話は切れた。
今、手元になければ意味のないものになる紙切れ。忘れた自分が悪いとはいえ、何とももどかしい。
届けてくれるのをあてにしてはだめだろう。
ペンと紙を手に取った時、折り返しの電話がかかってきた。
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