第1章

14/21
前へ
/21ページ
次へ
「やだよ、慎先生。あんまり移動が多いからって物見遊山気分になってもらうとさ」 「その通りだ」と慎は武に頭を下げる。 「悪いが一日待ってもらえないだろうか」 「どうにかできるの?」 「空港――いや、航空会社に問い合わせる。出てこなかった時の為に書き直しもする」 「うん、わかったよ」 ふう、と武はため息をつき、両手に腰をあてる。 手帳から航空会社の電話番号を探し、受話器を手にした時、武は吹き出した。 「何か」 「いや」と武は返事をする。 「結構さ、慎先生って抜けてるんだよね。男の僕が見ても美丈夫って言葉は君の為にあるように思うのに。時たま、どうしちゃったのさってポカするだろ。だから憎めないんだよねえ、君って」 「勝手に言っててくれたまえ」 慎はわざと恐い顔を作って番号をダイヤルを一気に回した。 「はい、確かに届いております」相手は言う。 これで書き直す手間が省ける。慎はひとまず安堵した。 「これから取りに行く。急ぎの物なので」 「いえ、それには及びません、こちらからお届けにあがりましょう」 「それはありがたいが……とても急ぐんだ、今日中、今すぐにでも手元にほしい。時間がかかるようなら」 「少しお待ち下さい、折り返し連絡致します」と言って電話は切れた。 今、手元になければ意味のないものになる紙切れ。忘れた自分が悪いとはいえ、何とももどかしい。 届けてくれるのをあてにしてはだめだろう。 ペンと紙を手に取った時、折り返しの電話がかかってきた。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加