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まあ、及第だな。
慎はかけていた眼鏡もそのままに応接室へ駆けつけた。
学校内は広く、応接室もその分多い。
すでに時間外の校内は人はまばらで、慎が向かった応接室がある校舎は人の気配はない。
しまった、ここではないのか。
日頃の運動不足を嘆きながら、守衛室のすぐ側の待合室に毛が生えた程度の小部屋に足先を変えた。
息を切らして駆けつけた慎を見た守衛はぎょっとし、「客は?」と詰まりながら聞く彼にあっちですと指さしする。
「お待たせして!」
ノックと同時に開けたドアの向こうには、ほっそりとした女性が椅子の上に品良く腰掛けていた。
え?
あんぐりと口が開きそうになり、眼鏡が汗でずり落ちた気がした。ぱくぱくと口を動かすが言葉にならない。
航空会社から差し向けられた人物は、こほん、と小さく咳払いをし、封筒を差し出しながら形の良い唇の口角を少しだけ上げ、笑みを浮かべ言った。
「お待たせしました。ご所望のお忘れ物です」
高遠茉莉花だった。
何故、君がここに? という問いより、書類の方が気になった。
両手で受け取り、急いで中身を改めた。
片側をクリップで留めたドキュメントは、確かに慎が機内でチェックしていたものだった。
「ありがとう、助かりました」
口から漏れた口調は気が抜けていた。
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